🕐 1分でわかるサマリー

結論3行:

  1. 点検・整備記録簿は、機器1台ごとに簡易点検・定期点検・修理・冷媒の充塡/回収の履歴を残す「機器のカルテ」。作成・保存の責任は業者ではなく**管理者(自社)**にある
  2. 保存は「機器を捨てたら終わり」ではない。廃棄してフロン類の引渡しを完了した日から3年を経過するまで保存が必要(令和2年4月1日施行の改正で明確化)
  3. 充塡回収業者は記録簿を確認してから充塡する建て付け。記録簿がないと充塡作業が止まる=壊れたとき、記録簿がないと修理が進まない

記録簿でカバーする機器の一生(この1枚で説明できます):

flowchart LR
    A[機器を設置<br>初期充塡量を記録] --> B[簡易点検<br>3ヶ月に1回以上<br>※全機器が対象]
    B --> C[定期点検<br>※一定規模以上の機器]
    C --> D[故障・漏えい発見<br>→ 修理の記録]
    D --> E[冷媒の充塡・回収<br>種類と量を記録]
    E --> B
    B --> F[機器の廃棄<br>フロン類を回収・引渡し]
    F --> G[引渡し完了日から<br>3年経過まで保存]

    classDef record fill:#0e7a5f,stroke:#0a5c48,color:#ffffff,font-weight:bold
    classDef keep fill:#fef3e2,stroke:#b45309,color:#7c3e02
    class A,B,C,D,E record
    class F,G keep

この一生のすべてのイベントが、1冊(1シート)の記録簿に積み上がっていきます。


📖 実務解説

点検・整備記録簿って結局なに?

第一種特定製品(業務用のエアコン・冷凍冷蔵機器)の管理者には、機器ごとに点検・整備の記録を作成し保存することが求められています。根拠は**法16条1項(フロン排出抑制法)**に基づく「管理者の判断基準」(平成26年経済産業省・環境省告示第13号)です。

「判断基準」という名前だと任意っぽく聞こえますが、都道府県知事による**指導・助言(法17条)→ 勧告・命令(法18条)**の対象になる、実質的な義務規定です。

記録簿には何を書く?(記載事項の一覧)

区分記載する内容
機器の基本情報機器の設置場所、機器を特定するための情報(型式・製造番号・管理番号など)
初期充塡量設置時に充塡されたフロン類の種類と量
簡易点検点検の年月日、点検内容・結果、実施者
定期点検点検の年月日、点検内容・結果、実施者(有資格者・専門業者名)
修理修理の年月日、故障・漏えいの内容、修理の内容・結果
充塡・回収年月日、充塡・回収したフロン類の冷媒番号区分別の種類と量、実施した充塡回収業者の氏名(法人は名称と実施者名)

充塡・回収の量まで記録するのは、第5回で扱った算定漏えい量(充塡量−回収量ベースの計算)の元データになるからです。記録簿がきちんと付いていれば、年度末の漏えい量算定は「記録簿を集計するだけ」になります。

いつまで保存する?

機器の使用中はもちろん、機器を廃棄してフロン類の引渡しを完了した日から3年を経過するまで保存します。令和2年(2020年)4月1日施行の改正で、廃棄後の保存が明確に義務づけられました。

「機器を入れ替えたから古い記録は処分」はNGです。廃棄時のフロン回収が適正だったことを事後に示せる唯一の証拠が、この記録簿だからです。

誰に見せる?(提示する3つの場面)

  1. 充塡回収業者・設備業者から求められたとき — 業者は充塡の前に、その機器の点検・整備の状況(漏えいや故障がないか)を確認してから充塡する建て付けになっています(充塡証明書の交付義務は法37条4項)。記録簿がないと、業者側が適正な充塡かどうか判断できません
  2. 都道府県の指導・立入検査のとき — 記録簿は真っ先に確認されるポイントです。国や都道府県への定期報告は不要ですが、「見せてと言われたら出せる」状態が求められます
  3. 社内・監査対応 — 算定漏えい量の報告根拠、環境監査(ISO14001等)の証跡としてそのまま使えます

様式は自由。紙でもExcelでもクラウドでもOK

法令で様式は定められていません。紙のファイル綴じ、Excel、クラウドサービスのいずれでも有効です。

選択肢のひとつとして、一般財団法人日本冷媒・環境保全機構(JRECO)が運営する**冷媒管理システム(RaMS)**があります。電子化する場合の一般的なメリットは次のとおりです。

  • 充塡・回収の記録から算定漏えい量が自動集計される
  • 廃棄時の行程管理票(電子版)と連動できる
  • 機器が多拠点にある場合でも本社から一元管理できる

一方、機器が数台しかない事業所なら、紙+Excelで十分回ります。「続けられる方式」を選ぶのが正解です(特定のサービスの利用は義務ではありません)。

第4回のチェックシートとの関係

第4回で作った簡易点検チェックシートは、そのまま記録簿の「簡易点検」パートになります。機器1台につき1ファイルを用意し、チェックシートを時系列で綴じていけば、それだけで記録簿の骨格が完成します。あとは修理・充塡・回収が発生したときに1行足すだけです。

現場あるあるNG集

NGパターン何がまずいか対策
「点検は業者に任せてるから大丈夫」で自社に記録がない記録の作成・保存義務は管理者(自社)側。業者の控えは自社の記録簿ではない点検報告書の写しを必ず受け取り、自社の記録簿に綴じる
機器更新のタイミングで古い記録簿を廃棄廃棄後3年の保存義務違反。廃棄時の適正処理を証明できなくなる廃棄済み機器の記録は「保存期限:引渡し完了日+3年」を書いて別ファイルへ
充塡した量は分かるが回収量の記録がない算定漏えい量が計算できない(充塡量がまるごと漏えい扱いになりうる)業者からの証明書類を記録簿にセットで綴じる
記録簿が担当者の頭の中とメールの添付に分散引き継ぎ・立入検査で「出せない」状態に機器台帳(第2回)と記録簿の保管場所を1か所に決める

記録簿がないと、どうなる?(社内説得用)

記録簿の不備そのものに直接の罰則はありません。しかし、判断基準に照らして著しく不十分な場合、都道府県知事の**指導・助言(法17条)→ 勧告・命令(法18条)へと進み、命令違反には50万円以下の罰金(法104条1号)**が科されます。

※旧規定の「懲役」は2025年6月の刑法改正により「拘禁刑」に改められています

それ以上に実務上効くのはこの2点です。

💡 上司への説明フレーズ例:「記録簿がないと、①機器が壊れたとき業者がフロンを充塡できず復旧が止まる、②年度の漏えい量計算ができず報告義務の判定すらできない、の2つで詰みます。機器1台1シートのテンプレを作らせてください」

⚠️ 自治体差分の注意

記録簿の記載事項・保存期間は全国共通ですが、立入検査・指導の運用頻度や重点項目は都道府県ごとに異なります。事業所所在地の都道府県サイトで「フロン排出抑制法 立入検査」を確認しておくと、地元の指導傾向がつかめます。


📥 持ち帰り資料(ダウンロード)

① Excelテンプレ「点検・整備記録簿」(機器1台1シート構成案)

シート上部(機器の基本情報・固定欄):

項目内容
管理番号機器台帳(第2回)と共通の番号
機器の種類・型式・製造番号銘板から転記
設置場所事業所名・フロア・区画
冷媒の種類(冷媒番号)R410A、R32 など
初期充塡量(kg)銘板または設置時記録から
定期点検の要否圧縮機の定格出力から判定(第4回参照)
廃棄年月日/引渡し完了日廃棄時に記入 → 保存期限(+3年)を自動計算

シート下部(履歴・追記欄):

内容
年月日実施日
区分簡易点検/定期点検/修理/充塡/回収(プルダウン)
内容・結果異常なし/漏えい兆候あり/修理内容など
フロンの種類・量(kg)充塡・回収時のみ。充塡+/回収−で記入
実施者自社担当者名 or 業者名+実施者名
証憑点検報告書・充塡証明書等の綴じ込み先番号

② スライド版「記録簿はうちの義務です」(社内説明用・全5枚構成)

  1. 表紙:記録簿は「機器のカルテ」— 作るのは業者ではなく自社
  2. 機器の一生と記録簿(本記事の図)
  3. 記載事項の一覧と「充塡・回収量→漏えい量算定」のつながり
  4. 現場あるあるNG集(業者任せ・記録簿の廃棄)
  5. 今日から始める運用:機器1台1シート+第4回チェックシート綴じ込み

次回予告

第7回「漏えいしたら — 修理優先原則と充塡のルール」 — 漏えいが見つかった機器に「とりあえずガス補充」はできない理由と、例外的に充塡が認められるケースを整理します。


参考文献・根拠

検証ステータス: エビデンス検証済み(2026-08-19、一部号レベルは公開直前にe-Gov目視確認推奨)